5月、ドナルド・シモダに会いたくて

大滝山のツツジは思ったより花の数が少なく、穀雨は終わり初夏の雰囲気が近づいています。

今5月を目前にして、瑞々しい緑と風、そして朝昼晩の陽の射し方に心ほぐされ、本堂の縁側に座って少しのあいだ空を眺めてしまいました。

五月病、という病があるほど、この季節は人の精神に良くも悪くも影響を与えるようです。

私はべつに病んでいるわけでは全くなく、ただある一つの本の事を紹介したくなって、というか、私にとっては『ある一つの』という形容では不十分過ぎるくらい、色褪せることの無い永遠の5月のような耀きを放つその本。

それは、リチャード・バックの『イリュージョン』です。

世界中にいるであろうこの本を愛するファンの人たちの中には、多分ある共通する想いがあって、それは
「私の大好きな本はこれです!」
とか
「私はこの本に出会って人生が変わりました!」
とかを敢えて言わない、そんな想いがあるはずです。

その理由を言ってしまうとネタバレになってしまうのですが、いやそもそもネタなどと言うのも憚られるほど、私はこの本に陶酔しています。

というわけで、敢えて言わないことを敢えて敢えて言うということでお付き合い願います。(笑)

初めてこの本に出会ったのは16歳の時、恥ずかしながら以後この本を10冊以上は買ってしまっています。

というのも、『イリュージョン』は本当に不思議な本で、その扱い方というか接し方としては、本棚のお気に入りコーナーにしまっておくべき本ではなく、誰かにあげてしまう。
貸すのではなく、あげてしまう。もっと言うと、捨ててしまっても良い。
さらに言うと、
持つとか貸すとか捨てるとか、捉われない、まさにそれこそがこの本との正しい付き合い方であり、またこの本のテーマでもあるのです。

10冊以上買ってしまっている私の場合は、誰かにあげてしまうというパターンで、でも暫くするとまた手元に欲しくなってネットでついで買いしてしまう、そんな具合です。

友人に薦められた『愛と幻想のファシズム』を読んで以来、村上龍氏に傾倒していた16歳の頃、店のスペースの3分の2をR-18の書物が占有しているとある小さな書店で、「村上龍・訳」が目に入り衝動的に買ってしまったのでした。

現在は佐宗鈴夫さんの翻訳版が出ていて、原文の英語で読んでいる人の話ではそちらの訳の方が正確らしいのですが、個人的には村上龍さん訳の方が気に入っています。

『イリュージョン』は、いわゆるスピリチュアル系の方々には有名な本で、またヒッピーのバイブルとしても評価されていて、要は世の中のメインストリームの人々からはあまり歓迎される本ではないのかもしれません。

しかし、少々強引な言い方をさせてもらうと、この本こそが仏教の『空』を解り易く説いていると私は確信しています。

そもそも『空』とは大乗仏教の教理であるわけですが、同時にリベラルアーツ(人を自由にする学問)の究極の交錯点でもあると私はみなしています。

逆に言うと、『イリュージョン』の中で登場する『救世主入門』という架空のガイドブック(実は後から出版され現実に存在します)に書かれている格言めいた言葉から、私は仏教の『空』の理解を深めてきました。

また、この本の世界は、一見すると明るい能天気な様に見えますが、実はエゴと暴力、それらに抗う自由、そしてそれもまたエゴなのか?・・・、という突き詰めた構図を読者に投げかけます。

そして、「人は解りあえない」という達観と「類は友を呼ぶ」という希望が不思議に混じり合った世界観を見せてくれます。

タイトルにあるドナルド・シモダとは、主人公のリチャードが出会う救世主の名前でリチャードからはドンと呼ばれます。
様々な解釈がなされるこの本ですが、私はドナルド・シモダとは、誰もが自分の中に投影している可能性を開花させた自分ではないかと思っています。

しかしながら、ドンはどこか寂しそうな雰囲気を放つキャラとして描かれていて、それはかつてニーチェが想定したような輝かしい超人ではないのです。

ごく身近な友人や、この本がその人の困難を乗り越える為の役にたつかもという時だけ薦めてきたのですが、5月の物思いに負けた私は、今日初めてネットで広く紹介することにしました。

『イリュージョン』でリチャードとドンが共に過ごす季節はイリノイの夏です。

でも私は、ここ日本の高知の日高村、5月の新緑の向こうの青い空の中に、ドンが操縦する複葉機トラベルエア4000を探しています。

見つかるはずのないものを探しています。

ただ、ぼーっとして、見つかるはずのないものを探しています。

探すふりをして考えています。

いろんなことを考えています。

いろんなことを思っています。

ただ、ぼーっとして・・・。

ついでに、厚かましくも私の臨場感をより身近に感じていただく為に、もしイリュージョンが映画化されたらエンディングにドンピシャだと思っているPIXIESの楽曲も紹介します。(^^)/↓


taichi
「信念が事実を創り出す」をモットーに、現代に生きた仏教を模索していきます。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です