本山へ講話に、でも珍道中。

総本山聖護院で講話の機会をいただき、昨日は2件の法事を済ませた後、特急列車と新幹線を乗り継いで一路京都へ向かいました。

地元高知の知人に「寺の用事で今度京都に行きます。」なんて話すと大抵、「いいな~羨ましいな~。」とリアクションされますが、その日程はと言えば、
高知駅→京都駅→聖護院→京都駅→高知駅をできる限り最短の移動時間で往復するだけの、通い慣れたビジネストリップなわけでして、それはそれは何の色気もない坦々としたものです。

ただ、車内での移動時間をまとまった読書の時間に充てることができるのが、ほんの細やかな私の楽しみでもあります。

そう、この日もいつも通り京都駅を出て、少し贅沢をしてタクシーに乗り込み、「聖護院門跡へお願いします。」と云うべきところ結構な確率で「Where?」と返される事を踏まえ、敢えて「聖護院御殿荘までお願いします。」ともどかしさを抑えながらも行き先を告げ、認知に劣る我が本山を嘆きつつ私はシートに沈み込むのでした。

そしてドアは締まりタクシーは線路を潜り鴨川を渡り、四条と三条の夜の賑わいの中を抜け、川端通りをさらに北へと上がっていく筈でした・・・。

ところが時間軸は現実に戻り、タクシーに乗車して約30秒後、私は気づきました。
・・・iPhoneが無いことに!

運転手さんに謝り慌ててタクシーを飛び降り、改札を出てからの自分が通ったルートを、まるで地面を這うような気持ちで目を見開きながら戻りました。

私はそのまま改札まで戻り、さっきお土産を買った場所で落としたに違いないと早合点。そして駅員さんに頼み込んでの再入場。

当の店のレジカウンターまで独り血走った目で俯向きながらの不審な歩みを進め、店員さんに情けない顔で尋ねるも、
「迷子になって泣いてたんですよ~。ウフフ」なんて、私を安堵させる店員さんの反応は無く、私は悲壮感漂わせながら先程の駅員さんに自分が今如何にマヌケに不運を招いてしまったかを述べ、対して駅員さんは、「30分前に駅の落し物受付の窓口は終了しました。」
という事態はさらに複雑なものとなるであろうとの予言めいた含みを漂わせながら、微かな同情を以って『JR東海道本線落し物総合預かりセンター』という茫漠たる迷宮へと私をいざなうのでした・・・。

いやいやいやいや、iPhoneは人類の叡智が結実された万能の機器、『iPhoneを探す」なんて便利な機能もありんすえぇ!

一旦冷静を取り戻した私は、一先ずこの重大な案件を離れ、90分後に迫った聖護院での講話に向けて、今度こそ川端を上がっていったのでした。

いざ聖護院の山門を潜った私は、諸先輩方への挨拶もお座なりに、
「iPhone落としちゃったんですよ~、汗」
という無駄にインパクトの大きい掴みによって一気に盛り上がった事務所の雰囲気とは裏腹に、「Excuse me, can I use your computer please?」
さえ言う余裕もなく、手近にあるiBookへ向けて食指を伸ばしていたのでした。

そして、いざiCloudにログイン。
鼻息荒くIDとパスコードを入力。
そしてアップル万歳!超高度情報化社会に幸あれっ!と内心絶叫しながらエンターキーを叩くものの、目の前の画面には、
「お使いのiPhoneにセカンドのパスコードをお送りしました。」
との何やら、現在行方不明のiPhoneにそのiPhoneを探す為に必要な数字のコードを送っているという、なんとも無慈悲な気の利かせよう。

・・・終わった。
・・・最早かくなる上は、諦念の境地で今宵の講話に挑むしかない!

いや、しかしその前に、今一度
ヤッテミヨウ ダメデモトモト ユウキダセ
私は側にあった固定電話から、駄目元のコールをiPhoneに発信しました・・・。

 

と、ここまでふざけた文章を書いてしまいましたが、本当に本当に有難いことに、受話器からはiPhoneを拾って下さっていた方の暖かいお声が!
その後、親切にも受け取りの段取りをして下さり、私はこの記事をそのiPhoneで高知への特急列車に揺られながら書いています。

お陰様で、本当の安堵を取り戻し、無事講話も果たすことができました。
今回の件で、たかがiPhone一つで取り乱し、心が顛傾しかかった自分に、甚だ反省しています。
本当に感謝に耐えません。
自坊に帰り今日の法事を済ませたら、その方に改めて感謝のお手紙を書くつもりです。

また本山の先輩方にも御心配と多大なご迷惑をおかけしました。私の気の抜けようはやはり進歩していないようです。

iPhoneはタクシー乗り場のあたりで、顛傾した私のバックから落ちていました。
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taichi
「信念が事実を創り出す」をモットーに、現代に生きた仏教を模索していきます。

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