法事でのサプライズ

朝晩かなり冷え込んできました。
師走とはなるほど拙僧のことかと思うほど、昨日までの一週間は配布物の手配りにあちこちを駆け回っておりました。

そして嬉しい事に当寺の御札を玄関先に貼って下さっているのを発見。
その色褪せた御札から、確かに丸一年という時間が経っているのだと改めて思い知らされました。

ところで、時間とはやはり人の想いに左右されるもので、1年という時間も10年という時間も人がどのような想いで過ごすかによって、その時間の差は数の大小という理屈を超え、大きく縮められることがあります。

我が天台系の宗派では、故人様の命日から丸1年で1周忌、そして丸2年で3回忌、そのあと3回忌に習い数え年で7回忌・13・17・23・27・33・50回忌と法事が続きます。

昨今の世情から言うと、7回忌からはガクッと集まる人数が減り、ささやかに営まれることが多い法事ですが、それでも各ご家庭により状況は様々で、50回忌であっても20人以上御親戚が集まり、家門隆昌を祝うかの如くの賑やかな法事もしばしばあります。

さて、法事でのサプライズとは、先日私がお参りさせていただいたお宅で起きた私には思いがけない嬉しいことだったのですが、それは何と手紙でした。
もちろん私へのラブレターではなくて(笑)、娘さんから故人様への手紙の朗読でした。

それは故人様の17回忌にあたる法事での読経の最中でした。突如、施主様から
「坊さん、実は妹が手紙を書いてきちゅうがよ、どのタイミングで読ませてもろうたらえいろう?」
と伺われたのです。
もうじき読経が終わる頃でしたので、
「それでは私が最後の回向文を唱える手前にお願いします。」
ということで私は脇に寄り、その場の一同は手紙の主に意識を集中しました。

私の読経の最中よりも一段と静まり返った部屋の中で、おもむろに手紙を取り出す際の紙が擦れる音に続く咳払い・・・。
そして手紙の朗読が終わった時、私は正直、「負けた・・・。」と思いました。

いやいや、勝った負けたの優劣ではないのですが、やはり家族の想いとそれを紡ぐ親子の想い、その圧倒的な言葉の透明度・強さ・温もり、なんという純、
私の表白や読経など、さながら内野ゴロで何とか一塁に滑り込めば良しっ、としたものをその手紙の朗読ときたら、もうサヨラナ場外ホームランという比較にならない説得力で、私は感服するしかありませんでした。

しかも恥ずかしい事に、私は未だ『ありがとうは有り難いこと』(前回の記事で紹介)の鉄板法話を法事が始まる前にしておりました。
娘さんが手紙を読み終えると、間髪おかず施主様が
「それじゃ、みんなで御婆さんの遺影に向かってありがとうを言おう!」

その掛け声で、皆さん自然と合掌されありがとうも合唱です。
手紙の内容に終始感動していた私も皆さんに習って、自然に合掌、自然にありがとうです。

・・・ボルテージのピークを過ぎたその場を返された私は、しみじみと回向文をお唱えし、つくづく思い至りました。

「ありがとうはやっぱり・・・ありがとうやん(^^)/」

いや(笑)、私の小難しさはそれはそれで否定するつもりはないのですが、純な『ありがとう』を言う時のなんという清々しい心地良さ。これに勝る説得力は他にないなと、その時の私はいよいよ感心した次第でありました。

手紙の内容については詳しくお伝えできませんが、私の印象に残った言葉の中から一つだけ紹介させていただくと、
「お母さんが天に旅立って16年の歳月、わたしにはまだ4,5年にしか思えません。」
その言葉を聞いて、やはり時間というものの不確かさに一人相槌を打つ私でした。

思えば、当寺の先代住職である祖父が亡くなって来年の夏で早や11年、祖父が病に臥せっていた頃修行生活の中にあった私は臨終の知らせを聖護院で受け、その数十分後京都駅八条口の雑踏の中、携帯電話の頼りない音量の母の声から祖父の死を告げられました。

私にとって祖父の死からの10年余りは、意識の中でもそれなりに相応して、「なるほど10年かぁ」と頷けるものですが、果たして自分にはあの心の籠った手紙のような純なありがとうが言えるだろうかと考えます。

・・・多分きっと言えると思います。
でも、そこには
「今、この場に居て、なにか笑って語りかけてほしい・・・。」
という、どうしようもない渇愛が『ありがとう』に肩を並べそうな気がします。

新しい鉄板法話のネタを日々思案しておる今日この頃、理屈を超えた人の想いにコミットするのは、簡単なようで実はとても敬意を払うべきもので・・・。
とにかく、先日の法事の中で起きたサプライズは素敵すぎました。
その場にお参りさせていただけて良かったな~、と僧侶である自分を改めて有り難いと思えた瞬間でした。

南無


taichi
「信念が事実を創り出す」をモットーに、現代に生きた仏教を模索していきます。

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